映画観賞ノート(2004/7-9)

『愛の落日』(2002米)

グレアム・グリーン『おとなしいアメリカ人』の映画化作品。フランスからの独立を目指すベトナムで、初老の英国人ジャーナリストは若く美しいベトナム人女性を愛人にするが、そこへ理想に燃えるアメリカ人青年が登場する。女性を巡って対立する二人だが…。

グレアム・グリーンというと。どうしても『第三の男』を思い出してしまう。初めて観たのは中学生だったが、ラストシーンのアリダ・ヴァリに不満を感じていた。とても冷たいと思ったのだ。もちろん今ではそう思わないが。ああいう形でしか表せないこともあるのかもしれない。

ということを思い出したのは、この作品でも一人の女を巡って二人の男が対立するからだろう。そして、一見恋愛物に見せかけて、実は複雑な政治事情が絡んだ人間ドラマというあたりも『第三の男』によく似ている。同じ作者なのだから当たり前なのだけど、この辺りにG・グリーンの思想性を深く感じる。ちなみに、この映画で最も印象的だったのは、英国人ジャーナリストの秘書のベトナム人だった。原作では二人いたのを一人にまとめたそうだけど、この二面性は当時のベトナムに住む人達をよく象徴してるように思う。それだけに、この秘書の憤りにはとても心を動かされた。どんな場合でも一般市民を巻き込むようなやり方は絶対に容認すべきではないと思うからだ。その反面、主人公の英国人ジャーナリストにはあまり共感できなかったのは、こと恋愛に関してのやり方が少々あざといように思えたせいかもしれない。もっとも、彼だって斜陽の国イギリスを表してるだとこじつければ、その悲しみに同調するものがあるけれど。(2004/9)

『父、帰る』(2003露)

ロシアの新人監督によるデビュー作、2003年ヴェネチュア映画祭受賞作でもある。12年間不在だった父親がある日突然帰ってくる。戸惑う家族達。父は二人の息子を旅行に連れ出し、息子たちは不安ながらも父と数日間過ごすことになる…。

ストーリーも演出も極めてシンプルだ。舞台劇にできるのではと思ったが、この作品では風景も大変重要な意味を占めているので、やはり映画的な作品といったほうがいいのかもしれない。なお、この作品の映像は全編くすんだ色調で統一され、夏の青空ですら冷え冷えとしている。そして、そこで繰り広げられる親子の関係はもっと寒々しい。父は息子の気持ちを推し量ることなく、一方的に命令するだけ。息子はいきなり現れた父親に反感しか抱かない。決して歩み寄ることのない親子だ。ただし長男はたくましい父の姿に憧れを感じ始めている。でも次男だけは決して父に心を許そうとしない。この違いが次々と新しい緊張感を生み出すことになる。その結果、事件が起こるのだが、これは避けようもない出来事だとしかいいようがない。

ロシア文学にとって、父と子というのは重要なモチーフだけど、この映画でも親子関係にいろいろな含みを持たせている。父とは一体なんなのか。子供は父親になにを求めるのか。監督は自分の主張をあちらこちらに断片的に示すのだけど、はっきりとした答えは明示しない。だから観客は数少ない手がかりを元に、自分の判断によってしかこの物語を解釈するしかない。こういう素っ気無さがいかにもロシア的だと思う。ロシア的といえば、父が息子の名前を愛称で呼ぶシーンがあるが、これはロシアならではの慣わしであり、その意味はとても重要だ。ナボコフのある小説のラストを連想した。(2004/10)

『アイ,ロボット』(2004米)

ロボット三原則(懐かしい!)に基づいた近未来を背景に、高名な科学者の謎の死に疑問を抱いた殺人課刑事が周囲の反対を押し切って捜査し始める。一見自殺のようだが、状況からするとどうやらロボットが関わっているらしい。しかしそれはロボット三原則がある以上、決してありえないことなのだ。では、どうして…。

タイトルでてっきりアシモフの原作の映画化だと思ってのだけど、実はインスパイアものだとか。でもやっぱりこれはアシモフの世界だなあと随所で感じて嬉しくなる。だってロボット三原則の世界なんだもの。私が初めて読んだSFはアシモフだったので、懐かしさがひとしおだ。鉄腕アトムでもお馴染みだけど、やっぱりロボット三原則はロボットものの基本だね。ストーリーもサスペンスではなく、きっちりとしたミステリ仕立てだったのも嬉しい。アシモフといえばSFミステリというイメージがあるけれど、そこを生かしてくれてるのは本当に喜ばしいことだ。実はウィル・スミスに興味がなかったので、この映画はスルーつもりだっったけど、これは観ておいてよかった。ありがとう!>Oさま(伏字になってないような…)

とにかく、すごいと思ったのは特撮の数々。ロボットの表情といい、動きといい、よくぞここまでやってくれたものだと思う。この点だけでも今の時代にアシモフを映画化してくれてよかった。ところで、これはシリーズ化にならないのかな。できることなら、『鋼鉄都市』あたりを映画化してくれるとなお嬉しいのだが。なまじっか奇をてらったようなSF映画よりもはるかに面白いものができるような気がするのだけどなあ。(2004/9)

『ヴァン・ヘルシング』(2004米)

19世紀のヨーロッパを舞台にバチカンからドラキュア退治を命じられたモンスターハンターがドラキュア伯爵の住むトランシルバニアへ向うが、そこでは壮絶な戦いが繰り広げられていた…。

今年の夏の話題作。ちなみにタイトルがヴァン・ヘルシングで内容がドラキュア退治なので、従来のドラキュア映画にアクションを追加した程度だろうと思っていたが、さすがハリウッド。仕掛けの規模が違う。というか、あまりに仰々しいので、とてもドラキュア映画には思えなかったのだが。それはともかく映画自体はとても楽しい。怪物君大集合といった感じで、これでもかというぐらい出てくる。でもって予想では最強と思われたヘルシングだが、意外なことに弱かった。いや、ヒュー・ジャックマン自身は弱く見えないのだが、いかんせん周りが強すぎるのだ。とくにアナ王女。普通の人間でかつ女性がいくら鍛えたとしてもあそこまでなれるだろうか。実は父親になにか改造されてサイボーグかなにかにされたとしか思えない。楽しかったのは、ディビット・ウェンハム演じるカールだった。マッドサイエンティストな修道士という設定がいい。この人がこんなにコミカルな演技をするとは思わなかった。本当に『ロード・オブ・ザ・リング』のファラミアを演じた人なのだろうか。どちらが地に近いのか気になるところだ。しかし、穴場というか伏兵だったのは、ドラキュアを演じたリチャード・ロクスバークだ。少々トウがたっているものの、男の色気にあふれてるのがいい。期待してなかっただけに逆にしびれてしまった。

ところで、この映画は見事にストーリーは二の次なんだね。いろいろと謎をほのめかしながら、最後まですっきりさせないとは…。とはいえ、ここまで娯楽性重視に徹してると、ある意味清清しい。理屈ではなく見て単純に喜ぶ映画なのだ。その意味では大変満足感があった。(2004/9)

『ヴィレッジ』(2004米)

19世紀末のアメリカの田舎の村では奇妙な掟が存在した。村人はその掟を忠実に守り、閉鎖的ながらも平穏な生活を送っていた。しかし、その生活も盲目の少女が村の青年と恋に落ちたことから変化し始める。やがて・・・。

とにかく思わせぶりな雰囲気に満ちた作品だ。いろいろと仕掛けておいて…というのは『シックス・センス』も同じだけど、途中からなぜか笑いが止まらなくなってしまった。だって登場人物達が変過ぎるのだ。まずはヒロインの姉なのだが、好きな男に告白するときの勢いがすごい。いきなりあんなこと言われたら、大抵の男は引くのではなかろうか(…案の定振られるのだが、あれは他に好きな人がいるからという理由だけじゃないと思う)

しかし、その後のヒロインはもっとすごかった。危険がすぐそばに迫ってきてるというのに、しかも家の中には姉と近所から預かった子供達がいるにも関わらず、好きな男が助けに来るのを待つのだ。自分の恋のために他人を巻き込むのはいかなものかと思わず突っ込んでしまう。まあ、そのおかげで最後までこの映画を怖いと感じることはなかったけれど。それにしても、こんなに笑える作品だとは思わなかった。この映画で一番びっくりしたのは、この点かもしれない。しかし、こんなことを大真面目に考え付くとはすごいなあ。どういう思考回路なのだろうか。ある意味シベ超に匹敵するな。というか、こんなところにマイク水野のライバルがいるとは思わなかった。

とはいえ、すばらしい点もちゃんとあったが。それはA・ブロディにこういう役を演じさせたことだ。ああ、なんて愛らしいのだろうか。こんな子(という年齢じゃないのだけど)がいたら、私なら他の男に見向きしないけどなあ。ま、とにかく作品的にはいろいろ不満はあるけど、A・ブロディの愛らしい姿を拝めただけで十分帳消しになった。(2004/9)

『スウィングガールズ』(2004日)

東北のある地方を舞台に、ひょんなことからジャズバンドに夢中になる高校生達を描いた爽やかな青春映画。

『ウォーターボーイズ』は見てないけど、いろいろな意味で上手い監督だなと思った。ストーリーも登場人物達もそんなに意外性に富んだものじゃないのだけど、無条件に楽しめてしまう明るさがいい。とにかく最初から最後まで安心して楽しめる内容だ。とくに上手いと感じたのは、主人公の性格設定。明るく素直だけど、適度に図々しくだらしない。この配分が絶妙だ。なんだか自分の高校時代を思い出してしまうから。クラスに必ず一人はいそうな感じとでも言おうか。この平凡でどこにでもいそうな子を中心に友情が育まれていくのだが、周りのキャラクターも楽しい。バンド少女にしつこく片思いする兄弟なんかは抱腹絶倒だ。狙いはミエミエなのだけど、やっぱりこういうのって楽しいなあ。あと、絶対に忘れられないのが竹中直人。この人は何をやっても竹中直人だけど、やはりその上手さに魅せられてしまうなあ。そうそう谷啓もぴったりの役で登場する。これまた嬉しかった。ラストもギリギリ感動ものにしなかったところがいい。青春映画とはいえ、あまり感動を前面に出されると白けてしまうから。(2004/9)

『LOVERS』(2004中)

唐王朝期の中国では反乱軍である飛刀門が勢力を伸ばしつつあった。王朝側の役人リウとジンは飛刀門撲滅のために策を練る。そのために飛刀門とつながりのある盲目の踊り子シャオメイを利用しようとするが…。

前作の『HERO 英雄』はとてもよかった。アクションもカッコよかったし、色彩もキレイだった。なによりも物語に密度があり、最後まで目が離せない作品だった。その後に続くのがこれということで、かなり期待していたのだが、これは本当に前作と同じ人が監督したものなのだろうか。いや、すばらしい点もあることは間違いないのだが…。まず色彩は前作よりなお鮮やかになり、うっとりとするほど美しいし、アクションも更にパワーアップしていて圧倒される。キャストの三人もいい。チャン・ツィーの美しさは絶品だし、アンディ・ラウの翳りのある表情もよかった。でも一番いいのは金城武かな。とにかくカッコいいのだ。長い髪の毛を振り回して動き回るところなんかは、個人的にかなりツボだった。これでストーリーがもう少し…だったら。なにが不満かというと、登場人物達の性格設定だ。二転三転するストーリーなので変化するのは分かるけど、なんというかあまりに変わりすぎて一貫性を感じられない。そのせいか物語がとても薄っぺらなものに感じられてしまった。あとはやはりラストかな。いくらなんでもこれは少々やりすぎじゃないのような気がする。もう少しすっきりとまとめてくれたほうがよかったのに。いくらでも面白くできる内容だっただけに、詰めの甘さをを惜しいと思う。次回作はもう少しまとまったものになるといいのだが。(2004/9)

『華氏911』(2004米)

2004年カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。前作の『ボーリング・フォー・コロンバイン』もそうだが、よくぞドキュメンタリーがここまで評判になったものだと思う。確かに『ボーリング・フォー・コロンバイン』は面白かった。現代アメリカの問題点を分かりやすく的確に指摘した画期的な作品だと思う。しかし、『華氏911』もその延長戦にある作品なので、二番煎じなのではと懸念していたが、前作に劣らないぐらい主張のはっきりした作品だった。ちなみに公開を巡る騒動のおかげで一気に前作をしのぐヒットとなってしまったのは、マイケル・ムーアの作品を批判していた人々にとって、なんと皮肉なことだろうか。もっとも、前作を観ていれば、批判はほどほどにしておいたほうがいいことが分かりそうなものだが。

内容は端的に言うと、『アホでマヌケなアメリカ白人』に、その後のブッシュ大統領の最新情報を付け加えたもの。ただし、ニュース番組を多用して、ブッシュ大統領がビンラディンからイラク攻撃へと攻撃対象をすりかえる手口を証明していく語り口は相変わらず見事だ。やはり、こういうのは映像で見ると圧倒される。とはいえ、やりすぎと感じた点もいくつかあったけど。たとえば上院議員の子息を参戦させる署名運動や、下院議員達への条例案の読み上げはパフォーマンスが過ぎるようで、少々興ざめだ。でも、こんなバカバカしいことを大真面目にやってのけてしまうのがムーアの恐ろしいところかもしれない。馬鹿げてると識者は思うだろうが、政治にあんまり興味のない人間は結構ムーアの主張に賛同するのではないか。だって、ムーアの言いたいことはとても分かりやすいのだ。データが違うとの意見はTV番組で見たけれど、そもそも正しい情報なんて存在するのだろうか。だから、この映画をすばらしいと思ったのは、TV番組や新聞の情報を鵜呑みにしないという当たり前のことに気付かせてくれたからだ。

それにしても、米大統領選はどうなるのだろうか。この映画のおかげで、とても気になるようになってしまった。(2004/8)

『誰も知らない』(2004日)

あるアパートに母子が引っ越してくる。大家さんや近所には母一人子一人の二人暮しと挨拶するが、実は他にも三人の子供がいる。隠れるようにして家の中に入った子供達は、存在を知られないために外出は禁じられる。唯一、長男だけは外出を許されるが、学校へは行かせてもらえない。やがて母親は仕事と称して家を出て、子供達を置き去りにする。残された子供達は力を合わせて、なんとか生活を続けていくが…。

不自由な生活なのに、不思議なくらい子供達の笑顔は明るい。世間一般の常識に当てはめると、紛れもなく可哀想な子供達といえるはずなのに。学校に行かせてもらえず、外出もできない。兄弟が多いし、母親一人の収入なので、生活も余裕はなく、欲しいものもあまり買ってもらえない。その上、忙しい母親の代わりに家事を全部自分達でこなしているのだ。もうひとつ不思議なのは母と子供達が仲いいこと。引っ越してきた夜の食卓の雰囲気の暖かさは、まるで一昔前のホームドラマのように明るい。物質の豊かさは心の豊かさと別物なのだということなのだろうか。もっとも、こんな親子関係が成り立つのは母親の性格によるところが大きいように思える。無責任でだらしないが、たぶんこの母親はとても子供達を大事にしている。やり方は間違っているけど、愛情に曇りがないのだ。外出はさせない末娘に音の鳴る靴を買ってあげてるあたりに、それが表れていると思った。だから子供達も不自由な生活に耐えられるのだろう。それだけに、母親が姿を消した後でさえも、なかなか恨み言は言わない姿には胸を打たれてしまう。あと秀逸だと思ったのは公園で知り合った少女の存在。学校でイジメに遭い、不登校している。家は裕福そうだが、彼女の親の存在は希薄だ。もし、経済力も愛情も子供の幸せにつながらないとしたら、なにが子供のためになるのだろうか。親子関係についていろいろと考えせられる作品だ。(2004/8)

『ドット・ジ・アイ』(2003英・スペイン)

スペイン人女性がロンドンにやって来て、裕福なイギリス人と出会い、結婚することになる。結婚式の直前に女友達同士で開いたパーティで縁起担ぎのために見知らぬ男とキスするが、なんとそれがきっかけで二人は激しい恋に落ちてしまう。二度と会わない決心の女を男は探し出し、やがて二人は…。

婚約者役を演じてるジェームズ・ダーシーがとてもいい。紳士的で優しいけどスノッブなところが、いかにも裕福なイギリス人のお坊ちゃまという感じなのだ。ところで『マスター・アンド・コマンダー』のときとずいぶん印象が違うので、びっくりした。しばらく副長とは気が付かなかったほど。でも、その演技力のおかげで、この作品はかなり面白くなったと思う。もちろん、追いかける男ガエル・ガルシア・ベルナルもいい。頼りなさそうなんだけど、気さくで優しいところにヒロインが惹かれるのはなんとなく分かる。ヒロインのナタリア・ベルベケは、勝気そうなところが役柄に似合っていていい。しかも、この鼻っ柱の強さがストーリーの重要なポイントなのだ。この絡め方、上手いなあ。それにしても感想が書きにくい作品だ。何か言ったら、それでネタバレになりそうなんだよね。まあ、ひねったラブストーリーが好きな人にはオススメの一作とだけ言っておこう。(2004/8)

『バレエ・カンパニー』(2003米・独)

アルトマン監督がバレエ団に関わる人々を描いた群像劇。前作が『ゴスフォード・パーク』なので、今回もどんなひねりを見せてくれるだろうと思っていたら、まるでドキュメンタリーのようなので戸惑ってしまう。一応、ヒロインはいるけれど、あんまりメインという感じがしない。むしろ仲間のダンサー達のほうが印象的だ。痛み止めを飲みながら踊り続け、家賃を払えないので仲間のアパートへ転がり込んで雑魚寝する。生活も体もぼろぼろなんだけど、誰もそれを苦にしない。なんでそこまでがんばれるのかというと、バレエが好きだから。こういうと感動的な物語のようだけど、実際はバレエ団の日常が映し出させれるだけ。でも、この少し引いた視点がいかにもアルトマンだ。芸術監督役のM・マグドウェルもアクの強そうな雰囲気がいい。なんてことない話だけど、映像的に妙に心に残った。(2004/8)

『マッハ!』(2003タイ)

久しぶりに血がたぎる。いやはや、なんてすごいアクションだろうか。もう途中からずっと口が開けっ放しになってしまった。ストーリーはいたって単純で、盗まれた村の宝物を取り戻すために、主人公が都会へやって来る…というもの。

ところで、この映画ワイヤーもスタントもCGもなしだそうけど、それでこのアクションでは撮影はさぞかし過酷だったろうなあ。というか、撮影中に死者は出なかったのだろうか。だって首や後頭部にひじ打ちとかキックをバシバシしてるんだけど…。えーと、あれは場合によっては死んでもおかしくない箇所だよね。これ、TVで放映されることがあったら、たぶん危ないから真似しないでくださいとテロップが流れるんだろうなあ。それでも一応失敗してるらしく(当たり前か)、エンディングではNGシーンが映し出されていたけど、その痛々しいことといったらもう…。でも観ている側としては最高に楽しいアクション映画だった。(2004/8)

『イザベル・アジャーニの惑い』(2002仏)

イザベル・アジャーニほど恋に狂う姿が似合う女優はいないだろう。そもそも『アデルの恋の物語』からしてそんな役だった。『カミーユ・クローデル』での恋と芸術の板ばさみとなって正気を失ってしまう姿も忘れ難い。この映画でもそういう女を演じているが、これがハマリ役で、まさしくこの人のための映画だった。

貞淑で慎ましく過ごしているにも関わらず、伯爵の愛人(というより現地妻か?)であるために、周囲からさげすまれている女性が放蕩者の青年に誘惑されて最初は頑なに拒むものの、一瞬の出来事で豹変するが…。

原作はコンスタンの自伝的小説『アドルフ』であるが、実は映画全体の印象はあまりない。とにかくアジャーニの変貌に目を奪われていたので。特にすごいと思ったのは前半の姿だった。まさかあんな歳でこんなに楚々たる女性を演じられるとは。しかも実年齢よりかなり若い役であるにも関わらず、全く違和感を感じさせない。おまけに、顔が大写しになっても、しわひとつ見えないのだ。いや、これは修正してるのかもしれないが。一体、今はいくつだろうかと調べると、1955年生まれ。ということは来年50歳。見えないなあ。ちなみに相手役のスタニスラス・メラールとは若干30歳。ずいぶん差があるけど、恐ろしいことに見た目では釣合っていた。なお、メラールとアジャーニは現在交際中だとか。いつまで経っても若い秘訣はこういうところにあるのだろうか。やっぱりアジャーニはすごいとしかいいようがない。すっかり圧倒されてしまった。(2004/8)

『ディープ・ブルー』(2003英・独)

これはなかなか感想を言いにくい。なぜかというと、ただひたすら大自然の驚異を映し出すだけだから。ドキュメンタリーだから当たり前なんだけど、筋書きもとくにないので、ただ見てるしかない。で、面白いのかというと、これが面白いから不思議だ。まず、よく撮ったなあという映像の数々に圧倒されてしまう。技術もすごいけど、長時間の撮影していたという根気はそれ以上にすごいとしかいいようがない。音楽もよかった。見る前は映画館じゃなくてもいいかなと思っていたのだが、ベルリン・フィルの演奏に、やっぱり来てよかったと思った。あれは大音声に聞きたい音楽だなあ。ちなみに、内容は思った以上に残酷な描写が多い。もちろんそれが自然の厳しさなのだけど、クジラの赤ちゃんがシャチに襲われる光景には思わず目を覆いたくなった。あと生理的につらかったのは、珊瑚の共食いかな。これには絶対に珊瑚のある海には潜るまいと決意したぐらい鳥肌ものだった。(2004/8)

『スチームボーイ』(2004日)

大友克洋が9年もの歳月をかけて製作したとか。発明家の祖父と父をもつ少年が二人が発明したスチームボールのためにアメリカの財団に追われる。祖父と父はかっては仲良く研究していたが、ある事故によって父は変貌し、祖父と対立するようになる。主人公は最初父に従うが、やがてそのやり方に疑問を抱き、祖父に協力するようになる…。

ストーりーはかなり複雑だ。一見すると父が悪者のように見えるが、実は祖父もなかなかのマッドサイエンティスト。主人公が二人の間で迷うのもうなづける。しかし、この映画でなによりもすばらしいのはヴィクトリア朝の雰囲気だ。少々渋めの色合いでやわらかいタッチで描かれた世界は見事としかいいようがない。メカの丸みを帯びたデザインも秀逸で、端々に大友克洋のセンスを感じる。やはり、この人は絵が上手いなあ。ラストは今ひとつすっきりしなかったけど、もし続編が作られたら間違いなく観に行くだろう。大友克洋の世界は好きだから。ところで、『AKIRA』と『童夢』の実写でも映画化が予定されてるとか。『AKIRA』はともかく『童夢』は見たいなあ。(2004/8)

『キング・アーサー』(2004米)

予告の段階からなんとなく察しがついていたけど、一体これのどこがアーサー王なのか頭をひねってしまう。製作側は従来とは違ったドラマを目指したそうだが、それならばエクスカリバーや魔術師マーリンも出さなければいいのに…。なまじっか、そういうのだけ取り入れるから、違和感を感じてしまうのだ。ま、製作者が製作者なので、そもそもあまり期待はしてなかったのだが。

とはいえ、アーサー王であるということを切り離して見れば、これはなかなか楽しい内容だ。なにせ突っ込みどころ満載だったから。なんといってもグネヴィアが一番笑える。強いのはいいけど、あそこまで行くと、もはやギャグとしかいいようがないのでは。衣装はヘンなのばかりだし。デザイン重視なんだろうけど、さすがに氷上でのあの薄物の衣装は無謀過ぎないか。あれでは寒すぎて弓矢を引くどころではないと思うのだが。でも極めつけは戦場での衣装かもしれない。あんなに露出していて大丈夫なのだろうか。弓矢が飛んできたら、すぐにでも傷つきやすそうだ。

よかったなと思えたのは、トリスタンとサクソン人の大将のセルディック。トリスタンの無口な剣士ぶりは時代劇ではよくいそうなタイプなのだが、やはりあのカッコよさにやられてしまう。とくに鳥を放すシーンが忘れ難い。これから始まる戦いの熾烈さと彼の運命を予感させてくれる。セルディックはその堂々たる悪役ぶりが印象的だ。冷酷無情もここまで徹してくれると、もはや美学。正義のためなどと大義名分を振りかざす迷う青二才とは比べ物にならない迫力だ。すっかりシビれてしまう。女にストイックなところいい。というか、全てが私好みだった。

しかし、この映画、最近のハリウッドの大作路線そのまんまな作りをしているなあ。真面目に見ると疲れるけれど、肩の力を抜いて観る分には気楽に楽しめていいかもしれない。(2004/7)

『海猿』(2004日)

海上保安庁のエリート中のエリートである潜水士を目指す若者達を描いた人間ドラマ。原作はマンガだそうだが、あいにくこちらは読んでいない。だけど、原作のほうは結構面白そうだなと思ってしまう。映画もそれなりに楽しめるのだが、ところどころテンポがよくないのだ。とくに恋愛シーンをもう少しどうにかしてほしい。あまりにも薄っぺらすぎて、それまでの緊張感が一気に薄れてしまった。それとは逆に訓練のシーンは迫力があっていい。とくに後半の巡視船、訓練船、ヘリコプターが出動する場面には圧倒された。やはり本物は違う。

登場人物達の中で一番印象に残ったのは、主人公のバディとなる工藤。訓練初日に潜水士を目指した動機を聞かれ、最後まで人命救助と答えるが、訓練ではいつも落ちこぼれ、主人公の足を引っ張りまくる。やる気はあるのだけど、努力と要領が伴わないという見るからにダメなタイプだ。だけど、いつしか訓練生をまとめる存在となっていくというのが心憎い。あと食堂のおばさんに杏子が扮しているのだが、キレイありすぎて気になってしまう。血の気の多い若い男ばかりの中に、あんな色気のある女がいて大丈夫なのだろうか。なんだか夜這いとかかけられそう気がするのだけど…。

大本のストーリーは悪くはないのだが、いろいろとディテールの甘さが感じた。ところで、エンドロールの後のあれはよく分からなかったのだが、続編の予告なのだろうか。だとすると、少々あざとさを感じるなあ。それならば、もう少し説明してくれるといいのに…。(2004/7)

『ウォルター少年と、夏の休日』(2003米)

マイケル・ケイン、ロバート・デュヴァルの大ベテランに二人にハーレイ・ジョエル・オスメントという若手の芸達者を配した少年のひと夏の物語。

母親に連れられてやってきたウォルターは遠縁の親戚だというマッキャン兄弟の住む家に連れてこられる。彼らには莫大な財産を隠し持つという噂があるが、それだけに人嫌いも激しい。果たして、ウォルターはここで夏を過ごすことができるのか…。

とにかく嬉しかったのはロバート・デュヴァルにマイケル・ケインが常に二人一緒で画面に出ていること。しかも、二人ともいい年しても枯れることのない悪ガキのような爺さん達なのだ。なにかというと、すぐにショットガンをぶっ放すすというやんちゃぶり。これがたまらなくよかった。とくにロバート・デュヴァルに至っては若者グループと喧嘩しても負けない、それどころか相手を叩きのめし、真の男らしさを教え込むというマッチョさぶりを発揮してくれる。昔の渋い印象があったので、これにはびっくりした。でも、こういう役もいいなあ。改めて惚れ直してしまう。デュヴァルに比べると、マイケル・ケインの見せ場は少ない。この人も楽しみにしていた…。残念だ。オスメントは相変わらず十代とは思えないほど安定した演技力を見せてくれる。それにしても、この映画、主要キャストがこの三人と決まった段階で、ある程度成功したといえるかもしれない。ただし肝心のストーリーはいろんな要素を詰込みすぎて、狙いが散漫になってしまったが。でも最後まで飽きることなく見続けられたからのはメインの三人のおかげだろう。できることなら、もう少しノスタルジックな点を強調してほしかった。やはり少年の夏の思い出ときたら、そういうものではないか。(2004/7)

『キッチン・ストーリー』(2003ノルウェー・スウェーデン)

1950年代にノルウェーを舞台に、家庭学の研究のためにスウェーデンの研究所からノルウェーの一人暮らしの独身男性の家に調査にやってくる。研究に協力しようとしない非観察者と調査員は最初はよそよそしいが、ふとしたことから仲良くなっていく…。

スウェーデンとノルウェーの違いなんて実はよく知らなかったけど、この映画を見ていると、国民の気質などずいぶん違うことに気づかされる。隣国だけあって過去の戦争も暗い影を落としているらしい。そういう背景をちらりと見せつつ、この映画は人間の交流の原点を描き出していく。その語り口がいい。ほのぼのとしたユーモアにあふれていて見ているこちら側まで暖かくなるのだ。登場人物達の設定も見事。なかでも無口で無愛想だけど実は茶目っ気あふれるイザックには何度もクスリと笑わさせられてしまう。

それにしてもこの作品、男だけ、しかも中年と老年しか登場しないのに、出てくる人間がみな可愛い。イザックとフォルケの仲睦ましさに嫉妬するグラントなんて最たるもの。ここまでくると、友達以上…未満かとまで思ってしまう。もちろん、そんな要素は一切ないのだが。しかし考えてみれば、イザックとフォルケも元来交流してはいけない間柄なのに、いつしか人目を忍ぶように親しくなっていくなんていう流れに、ついロミオとジュリエットを連想してしまった。あらぬ誤解を招きそうな例えだが。もっとも、赤の他人からなくてはならない存在へ変わっていく過程は恋愛も友情もあまり変わりないかもしれない。それだけに仲良くなった二人が別れなければならなく状況に追い込まれていくのには胸をしめつけられる。ラストに至るまで暖かい雰囲気に包まれたとても心温まる物語だった。(2004/7)

『スイミング・プール」(2003仏)

監督が『8人の女たち』のフランシス・オゾンで、主演がシャーロット・ランブリング、しかもミステリーだそうなので、ワクワクしながら観たが、『8人の女たち』同様どこがミステリーなのかよく分からない作品だった。

ベテランの女流ミステリー作家が出版社の社長の好意によって、ひと夏を社長の別荘で過ごすことになる。落ち着いた環境で新しい作品に取り組もうとする作家の前に、いきなり社長の前の妻の娘と称する若い女が現れて、それまで静かだった主人公の生活をかき乱していく…。

一応、ミステリー仕立てになっているが、私が一番驚いたのはシャーロット・ランブリングのオールヌードだ。もう若くない筈なのに肌の張りがとても美しい。しわもほとんどない。顔のほうは年齢相応なのにと思うとなおさら不思議だ。『愛の嵐』を思い出してしまい、ちょっと嬉しくなる。しかし、なにを心がければ、こんなに美しい体を保てるのだろうか。羨ましい…。あと気になったのが、ランブリング演ずる作家のモデル。イギリス人で警部もののシリーズを書いてる人は多いけど、あのタイトルから私が思い浮かべたのはジョイス・ポーターだ。ランブリングのあのシニカルな視線に相応しい作家だと思うのだが、どんなものだろうか。

もちろんリュデイヴィーヌ・サニエも忘れ難い。『8人の女たち』の頃はまだあどけなさが残っていたのに、これではすっかり成熟した女性となっている。あの年頃は成長が早いなあ。でも蓮っ葉な美しさがいい。役柄にもよく似合っている。肝心のストーリーはミステリとして見るとかなり不満が残るけど、これもある意味フランス人らしいかもしれない。人生なんてそういうものだから。(2004/7)

『カレンダー・ガールズ』(2003英)

イギリスの地方の婦人会のカレンダーで、なんと自分たちのヌードを披露したという実話に基づいたコメディ。

>ギリスほどモラルにやかましい国はないだろう。かのヴィクトリア王朝時代に椅子の足が卑猥だからという理由でカバーをしたとかしないとか。足が卑猥に見えるというほうが変だと思うが、そのおかげでイギリスではポルノが発達したらしい。現在はさすがにそれほどやかましくないのだろうと思っていたけれど、この映画を見るとまだまだそうでもなさそう。やはりお上品さでイギリスの右に出る国はないかもしれない。

そう思ってみると、この映画で女性達がヌードになることを大騒ぎする気持ちがよく分かる。いくら友人を励ま<すためとはいえ、こんな大胆な姿をさらけ出すのは相当勇気が要ったはずだ。それだけに思い切って行動に移す姿に一種の爽快感を覚える。後半では話が一転してカレンダーの売り込みを巡るドタバタ劇となるが、こちらではビジネス界への風刺が効いている。世間の注目に流されて一時は自分を見失ってしまうが、最終的には元の生活へ戻るというラストがいい。どんなときでも女性達が前向きであるというのもいい。見ていて元気づけられる。

ところで、このカレンダーが爆発的に売れたのは買う側もタブーを感じたからではないだろうかと勘ぐっている。若くもない美しくもない普通の女性達のヌードを見たいのは、それが禁じられた存在だからだと私は思うのだが。現在でもカレンダーは売れ続けているそうなので、ぜひとも買った人の感想が聞きたいものだ。(2004/7)

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004米)

実はこのシリーズを劇場で観るのは初めてだったりする。1作目はビデオで見て、それなりに面白いとは思ったものの、続きを映画館で観たいとは思わなかった。なぜかというと、原作に忠実すぎるから。原作で不満に感じた点もそのまんまなので、見ていてフラストレーションがたまるのだ。せっかく映画化するのだから、原作の弱い点を補ってほしかったのに。もっとも、そんなこと原作者が絶対に許可しないだろうが。

ということで、メインの三人やストーリー展開にはとっとと見切りを付けて、脇役達の観賞に勤しむ。そう、このシリーズはイギリスのベテラン勢が結集してるのだ。今時こんな豪華なキャスティングは他ではそうそう見られない。この点に関しては、この映画はすごいと思う。

で、やはり脇役達がいい仕事をしている。アラン・リックマンはあの女装姿には思わず吹き出してしまう。びっくりしたのが、ゲイリー・オールドマン。この人はキレた悪役のイメージが強かったので、シリウス役と聞いたときは少々不安だったが、スチールで見ると意外なことにカッコいい。で、実際は予想以上にもっとよかった。うーん、こういう役もこなせるんだね。伏兵だったのは、デビット・シューリス。よもや、この人がこんなにカッコいいとは。いや、今にして思えば「ギャングスター・ナンバー1」でも十分よかったんだけどね。この映画で改めてその魅力に気が付いた。ああ、彼の出演作をチェックしなくては。

ということで、メインのところではあんまり関心が持てないのだけど、脇役好きのツボはしっかりと押さえてくれた作品だった。さて次作はどんな人が出るのだろうか。今から楽しみだ。(2004/7)