映画鑑賞ノート(2003/11-12)

『片腕カンフー対空とぶギロチン』(1975香港)

深堀骨氏の熱い語り口に影響されて観に行ったもの。「キル・ビル」の元ネタとなった映画だそうだ。どこら辺が元ネタかというと栗山千秋が振り回すアレである。もっともこちらのほうが数倍破壊力があるけれど。

というか、このギロチンの破壊力をなんと形容しようか。あまりの強烈さににただひれ伏すのみだ。さすが最強の武器といえよう(でもこんな武器で死にたくないな。だって情けなさすぎるんだもの)ギロチンの遣い手である老師もまた武器に相応しいキャラクターで、間違いで人を殺しておきながら謝るどころか「こうなりゃ片腕は皆殺しだ」と開き直る。まるでキレた中学生のよう。おいおい、アンタは坊さんじゃなかったのか…。

対決する片腕カンフーも確かに強そうだけど、謎の日本人が(ちなみにこの映画には謎の外国人らしきものが多数出演)試合で無刀流と名乗りながら、実は刀を仕込んでいたのを見て「どこが無刀流だ」と憤りつつ「参考にしておこう」というあたりでなんとなく強さの程がうかがい知れてしまった。案の定、最後の対決ではいろいろと策を講じるのだが…。

ま、この手の映画に理屈を言うのは野暮というもの。観たままを素直に楽しめばいいのだ。それがB級映画の楽しみ方だもんね。(2003/12)

『ポロック 二人だけのアトリエ』(2003米)

エド・ハリスが監督・主演・製作の三役を務めた作品。原作はピュリッツァー賞受賞だとか。初監督と思えないほど堅実な演出で破滅的にしか生きられない画家の人生を描いている。もともとエド・ハリスは芸達者だと思っていたが、この演技はすばらしいの一言。共演のマーシャ・ゲイ・ハーデンも一歩もひかぬ演技で堂々と渡り合っている。少々残念だったのはー・クラズナーのその後を描いてくれなかったこと。個人的には彼女の心理状態のほうが気になっていたのに…。それにしても、どうして男ってこういう風に苦しい時期に支えてくれた女を成功すると棄てるケースが多いのだろうか。古今東西「浪速恋しぐれ」なことが絶えることがないのは一体どういうことなのか。つくづく才能に惚れるというのは恐ろしいことだよなと思ってしまう。(2003/11)

『インディス・ワールド』(2002英)

パキスタンの難民キャンプに住む少年が従兄弟と共にイギリスへ密入国しようとする姿をドキュメンタリー風タッチで描いたもの。少年の気持ちを理解するために少年の理解できない言語には字幕スーパーがつかないという仕組みになっている。またそれ以外にも少年の視点からの描写が多く、この旅がいかに困難なものであることを言葉でなく映像で見せ付けてくれる。なるほど言葉の分からないとはこういうものか、見えないところを歩くのはこんなに恐ろしいことなのかと改めて少年の旅の過酷さを思い知る。それだけにラストがやりきれない。こんなに苦しい旅の果てがああなのか……救われない。ところで、こういう作品をイギリス人監督が撮るとは思わなかった。難民という複雑な問題を感情的にではなく冷静に映し出したこの監督の手腕に敬服した。(2003/11)

『キル・ビル』(2003米)

よくぞここまでやってくれたものだと思う。今年はオタク映画だと、マトリックスという手強いライバルがいたにも関わらず、趣味とこだわりを無意味なぐらいとことん追求してくれたこちらに軍配を上げたい。いやあ、やはりオタクというのはこうじゃなくちゃね。周囲のことんぞ我関せずというような姿勢で突っ走ってくれてこそだよな。ツッコミどころは満載だけど、その確信犯的な姿勢はいっそ清清しい。正直言って二部作と聞いたときイヤな予感がしたけれど、これなら後半も楽しみだ。できればもっと公開を早めて欲しい。GWまで待つのはむごすぎる。

だけど、ビルさんちの殺し屋集団ってあんまり効率のよくなさそうな組織に見えてしょうがない。利益率というか回転率が悪そうといおうか。どういう経営方針なのか気になってしまった。(2003/11)

『シャンハイ・ナイト』(2003米)

前作から感じていたけど、ジャッキー・チェンも老けたなあというのが第一印象。もう50代だもんね。無理はないとは言え、見ていると結構痛々しい。がんばっているだけになおさらだ。でもこの歳でも変わらずにスタント無しでアクションをやっているのだから、やはりスゴイ人だと思う。

映画は前作の続きだけど、前作を忘れていてもとくに支障なし。ただ前作のほうがストーリーにメリハリがあって楽しかったような気がする。共演のオーウェン・ウィルソンがひたすらオゲレツ。この人「ザ・ロイヤル・テネンバウム」でも女たらしな役だったけど、本当にうんざりするぐらいそういう役が似合うよなあ。逆にドニー・イェンはひたすらカッコいい。ジャッキー・チェンとのアクションシーンでの動きのよさはあまりにすばらしくて見惚れてしまった。やっぱりアクション俳優はこれぐらい動いてくれると嬉しいなあ。とはいえ、ジャッキー・チェンもどこまでやれるか分からないけど、くれぐれも体に気をつけてがんばって欲しいものだ。(2003/11)

『復活』(2001伊・仏・独)

パウロ&ヴィットリオ・タヴィアーニによるトルストイ『復活』のかなり忠実な映画化。このタヴィアーニ兄弟は最も好きな映画監督の一人(正確には二人だけど)だし、原作がトルストイとあれば何をおいても観に行かなくてはならない作品だと思っていた。それだけに期待していたのだが、期待を上回ることはなかった。残念だ。なんというか原作を忠実にやりすぎていて見ている側の想像力を刺激しないのだ。あとロシア人の描き方にも疑問を感じる。これはどこがと上手くいえないが、極端から極端に走るというロシア人の国民性とその複雑さがあまりないような気がした。それと、ロシア作品をイタリア語で聞くというのも違和感のひとつだった。まあ、これは言ってもしょうがないことだけど。どちらにしても、この監督の持ち味である繊細な心理描写があまり見受けられなかったのが一番寂しいことだったかもしれない。(2003/11)

『真実のマレーネ・ディートリッヒ』(2001仏・独・米)

ディートリッヒの評伝映画といえば、M・シェルの『マレーネ』があるが、あれはなかなか凄まじい映画だった。なにせ当の本人であるディートリッヒが全く姿を見せず声だけの出演なのに、それすらも不満だったらしくかなり不機嫌そうにインタビューに答えていた。途中で何度M・シェルがブチ切れていたことだか。しかし、ファンとしてはそういう気難しさもディートリッヒらしくてなかなか楽しめた。

この映画のほうは死後に製作されたものだし、原作となった評伝を娘であるM・ライヴァが監督とプロデューサーを孫であるJ・ライヴァという直系の身内で固めているので、そういう場面は一切ない(当たり前か)。とはいえ、身内によるものといってもあまり美化してなく、手堅くディートリッヒという稀代の女優を描いているのがよかった。強いて不満を言うなら、数多いロマンスの相手の中でJ・ギャバンだけしか取り上げてないところだろうか。ぜひともレマルクとのエピソードも入れて欲しかったのに。あとディートリッヒの友人としてヒルデガルド・ネフが登場するのだが、往年の面影があまりないことに愕然した。(2003/11)

『リーグ・オブ・レジェンド』(2003米)

超人同盟ということでいろんな物語の主人公達が結束して悪と戦うという設定が楽しい。元はアメコミだそうだが、これは本好きな人間にはこたえられないものがある。だって誰もが必ず知っている物語ばかりなんだもの。ただし、知名度のある物語だけに人によっては、俳優と役柄に不満を感じるかもしれない。幸い私はそんなことはなかったけれど。しかし、ある方も仰っていたけれど、ネモ船長のカンフー使いには笑ってしまった。インド人だよねえ、いつの間に会得したのだろうか…。トム・ソーヤはやんちゃな坊主というより普通のアメリカンな若者だし、ジキルは超人ハルクにしか見えないし、いろいろとツッコミたいところはあれど、大笑いしたのはMだろう。いやあ、よもやこの役柄を出すとは・・・。しかも悪の親玉はあの人ですか。やはりそう来たかと膝を打ってしまった。(もっとも知らない客もいたそうだが…by王さま談)呑気に楽しめる娯楽作品だった。しかし、本気で2を作るつもりなのかな。一作目ぐらいでとどめたほうがいいような気もするが。(2003/11)

『”アイデンティティー”』(2003米)

最初に「結末を誰にも話さないでください」との警告が出るけれど、確かにこれは面白さを人に説明しちゃいけない類の映画だ。ある方のアドバイスに従って出来るだけ予備知識を入れずに観に行ったけど、それは正解だった。とにかくストーリー展開が上手い。思い起こしてみると、ちゃんと複線が張られているし、それでいてラストはあっという風になっている。惜しむらくはこの面白さを観てない人間に語れないところか。いろいろと語りたい部分はあるのだけど、ぞれらは全部トリックにかぶさるしなあ。ミステリーファンならオススメぐらいしか言いようがない。とりあえず差し障りのないところだけでも語らせてもらえるならば、登場人物達があるモーテルに集まるざるをえないという発端はとてもよかった。(2003/11)

『マトリックス・レボリューションズ』(2003米)

前々作も前作も観たので、つい勢いで完結編も観てしまう。実はあんまりストーリーには期待していなかったけど、予想以上に陳腐だったのには脱力した。前作からウザったいぐらいに愛と平和を説いていたけれど、その行く末がこれなのか。まるで宇宙戦艦ヤ○トみたいじゃないか。もっともヤ○トに比べれば、SFXとCGの技術が格段に進化しているので映像的には見飽きなかったけど。それにしても機械と人間の戦いはいくらがんばっても人間側が不利だよね。人間側の兵器も妙に旧式だし(弾込めぐらいなんとかならないのか…)、数の上でも負けているし、どうして今まで全滅しなかったのかが不思議なくらいだ。ここら辺の設定もう少しなんとか工夫してほしかったなと思う。とはいえ、大量のA・スミスが雨の中でネオを対決する場面はなかなか。こういうバカバカしい映像をキチンを見せてくれるのがマトリックスの醍醐味だ。

ちなみに今回の萌えはキャラはセラフ。A・スミスも悪くはなかったけど二回目だと新鮮味が薄れてしまって…。その点セラフは美味しい役どころだったと思う。(2003/11)

『月曜日に乾杯』(2002仏・伊)

藤村俊二のナレーションの予告ではずいぶんほのぼのしたイメージだったけど、本編はかなりほろ苦い。どこの国でもお父さんはツライねえ。キツイ仕事の毎日なのに家族からはあんまり労ってもらえないし、これじゃ旅に出たくなる気持ちもよく分かるというもの。でも家出というのは帰る場所があって成立する行為であるから帰る場所があるお父さんはそれほど不幸じゃないともいえるけど…。とにかく生きることの苦さをしみじみと感じさせられた。ところでラストのお父さんのファッションにはびっくりしたが、一体どこであんなセンスを身につけたのだろうか。かなり気になったけど、どういうわけかここら辺のことは一切省かれている。これは聞くだけ野暮ということなのかな。(2003/11)

『ぼくの好きな先生』(2002仏)

フランスの田舎の小学校のドキュメンタリー映画。登場するのは全て実在の先生と子供たち。ストーリーはとくになく日常生活をごく普通に映し出しているだけ。でも意外なことに結構面白かった。なんといっても子供たちがいい。危なっかしく見ていてハラハラさせられるときも多いけど、その分見ていて飽きないのだ。子供ってどうしてこんなにいろんなことを思いつくのだろうか。微笑ましくてしょうがない。もちろん子供たちがこんなに伸び伸びできるのは先生の暖かい視線があるからだろう。先生と子供たちの信頼関係は自分が子供の頃と比べてみると羨ましいの一言に尽きてしまう。いいなあ。私もこんな先生に巡りあいたかったなあ。この先生のすばらしいのは、たとえ相手が幼い子でも一人前の人間として扱うところ。厳しいときもあるけれど、だから子供たちは先生を慕うのだ。この先生はもうじき停年だそうだけど、その後はどうするのだろうか。こういう先生はぜひともずっと教師を続けていてほしいものだと思う。(2003/11)