映画鑑賞ノート(2003/5-8)

『天使の牙』(2003日)

えーと原作はよかったんだけどねえ。どうして原作を忠実に映画化してくれなかったのかな?こんな収まりの悪いストーリーにした意味は一体どこにあったのだろうか?まあ、君国が愛人をを必要とする理由はよかったけどね。でもそれぐらいかなあ、よかったと思ったのは。

とにかくラストに閉口した。こんなことをやるのは水野晴郎ぐらいだと思っていたのに…。まさか続編を作る気なのだろうか。そういうところまでマトリックスを真似たいのだろうか。(2003/08)

『HERO 英雄』(2002中国)

これはもう言葉にできないぐらいよかった。予告を観たときは荒唐無稽すぎて一抹の不安を感じていたのだが、先に観た方々の感想がかなり好意的だったので安心して観に行った。行ってよかった。この映画を観た後、もう一本ぐらい何かを観ようと考えていたのだが、余韻を冷ますのがもったいなくて観るのを止めてしまった。

しかし、マトリックスと同じようにワイヤー・アクションとCGを使っているのにこの差はなんだろうか。マトリックスだと馬鹿馬鹿しく映った場面もこの映画だと画面が引き締まって見えるんだもの。ストーリーもこちらのほうがずっとよく出来ていると思うし(ここら辺は個人的な好みだけど)出演者のレベルも違うと思う。ジェット・リーの動きのすばやいことといったらもう…キアヌがいくら努力してもあのスピードは無理だろう。それとトニー・レオンがものすごくカッコいい!今頃気がつくなんて遅すぎだけど、あのトニー・レオンだけでも観に行った甲斐はあったと思う。あとマギー・チェンの妖艶さもたまらなかった。この人も全然老けないなぁ(羨ましい)(2003/08)

『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003米)

なんかこれ絶対に狙っているよなあ。だってどう見ても腐女子向けな作りなんだもの。まあ、そこそこ楽しめる内容ではあったけど。J・デップのノリノリぶりが楽しい。見た目はO・ブルームのほうがいいんだけど、これはやっぱりJ・デップの映画。彼じゃなかったら面白味は半減していただろう。G・ラッシュもよかったなぁ。もっともこの映画の観客層には分かりにくい魅力かもしれないが。しかし、大した内容でもないのになんでこんなに長くしたのだろうか。実言うと途中から少々飽きてしまった。もう少し短くてもよかったのでは?(2003/08)

『永遠のマリア・カラス』(2002伊・仏・英・ルーマニア・スペイン)

ゼフィレッリの映画はあまり好きじゃないのだけど、オペラの演出はすばらしいというのを聞いたことがあるので、それならこういう題材は似合っているんじゃなかろうかと思いつつ鑑賞。確かにオペラに通じている人だけ合って劇中劇のカルメンの盛り上げ方が上手い。この場面だけ再編集してもう一度見たいなぁ。主演のファニー・アルダンはマリア・カラスとも似てないうえに美人でもなかったはずだけど、あまりの存在感に圧倒されてしまう。この人、年々迫力を増すなぁ。でも、今回は残念なことに、マリア・カラスの歌声を上回ることはできなかった。だってこの映画で一番すばらしかったのはなんといってもカラスの歌声だったから。(2003/08)

『ベアーズ・キス』(2002カナダ)

予告編は少女と熊の交流を描いた感動のドラマみたいな感じだったので、てっきり子供向け動物映画と思いきや、全く違うのにはびっくりした。なんと少女と熊の恋愛を幻想的に描いた作品なのだ。なんでこんな予告編にしたのだろうか。幻想系が好きな人なら十分楽しめる内容なのになあ。もったいない。

スタッフも出演陣もそうそうたるメンバーが揃っているが、なかでも一番よかったのはセルゲイ・ホドロフ・Jr.。彼を見るのはこれが初めてなのだが、残念なことにこれが遺作だとか。早すぎる死が悲しい。もっと前から見ておけばよかった。

ストーリーは割と単純なのだけど、時々ハッとするほど美しい場面が出てくる。冒頭の空中ブランコのシーンとか。しかし一番忘れがたいのはラスト。決して意外なものじゃないけれど、こうくるとは…。でもとてもすばらしくて観終わった後もしばらく夢心地になってしまった。予告を観たときは観に行くのをためらったけど行って正解だった。これ、DVDが出たら絶対に買おう。(2003/08)

『氷壁の女』(1982米)

フレッド・ジンネマンの遺作。日本で公開されたのは「薔薇の名前」の後だったような気がするが、実は「薔薇の名前」以前の製作だったようだ。あれれ「薔薇の名前」を見損なったので、これは是非にと観に行った覚えがあるのだけど、それじゃ何かと間違えたのかなぁ…。

それはともかく久しぶりに見返しても、やはりショーン・コネリーが渋い。わがままで生活に疲れた初老の男なのだが、ヒロインが心惹かれる気持ちがよく分かる。かなり背徳的な関係なのに嫌悪感を感じなかったのはショーン・コネリーの魅力とジンネマンの演出の上手さによるものだろうか。静穏な雰囲気がとてもよかった。ランベール・ウィルソンもこれがデビュー作だけあって初々しい。とても「マトリックス・リローデッド」でキレたマフィアのボス役と同一人物に思えないほど。そういえば、この人も見た目はあまり変わらないなあ。もっとも変わらないという点ではショーン・コネリーのほうがもっとスゴイ。ハゲてから全く歳を取った風に見えないんだけど…なにか施しているんでしょうか?(2003/08)

『ブロンドと柩の謎』(2001米)

久しぶりのピーター・ボグダノヴィッチである。この監督の映画というと忘れがたいのが『ニッケルオデオン』映画創世記のハリウッドを舞台にしたノスタルジックな味わいがとてもよかった。このときのテイタム・オニールはとにかくすばらしくてこれぞ天才子役と思ったものだが、その後は青春スターへと転じ、マッケンジーと結婚離婚した後はあまりニュースを聞かない…と思っていたら、M・ジャクソンのスキャンダルに巻き込まれていた。なんとなく悲しい。

なんてどうでもいいことはともかくボグダノヴィッチは相変わらずうまい!『ゲームの規則』を思わせるような他愛ない恋愛遊戯から事件に至るまでの語り口が絶妙なのだ。とくにチャップリンに対しても見方ときたらもう……(この映画の始まる前にチャップリン映画祭の予告をやっているというのに…)実際、このダメ男ぶりを評伝で知っている身としては大笑いである。それにしてもクセ者ばかりの登場人物をきちんと、かつ嫌味なく描けるのはさすがとしかいいようがない。ああ、こんな映画を観ると嬉しくなってしまう。とてもいい映画だった。(2003/07)

『スパイ・ゾルゲ』(2003日)

これぞまさしく戦前を知る人間が万感の思いを込めて作ったという映画だ。ゾルゲ事件を通して、平和と国家の正義とはなにかを力強く訴えてくる。その気迫に思わず飲まれてしまう、そんな迫力ある作品だった。視点が偏ってないのがいい。政治に正義はない。それよりも国益が優先されるのだ。そんな当たり前のことが切々と伝わってくる。国を愛することと正義を愛することは違うと言っていたのは誰だったか…ゾルゲはともかく尾崎秀実はそういう人間だったと思う。それだけに彼の最後は悲しい。それに比べると、ゾルゲはどういう人間だったのだろうか。彼がスパイだったのは正義のためなのか、それとも国家への忠誠心なのか。私が知っているのはゾルゲのスパイ網はかなり綿密なものだったということだけなので、この映画を観たら、もう少し人間像が分かるかと思ったが、今ひとつ理解できなかった。これは文献を読んでから観るべき映画だったかも…(2003/07)

『ギャングスター・ナンバー1』(2000英)

『キス・キス・バンバン』でP・ベタニーが気に入ったので観に行ったのだが、もう少し予備知識を仕入れてから観るべきだった…。だってベタニーがここまでキレ役の似合う役者だとは知らなかったんだもの。ええ、勉強不足でした。

内容はというと、はっきり言って男の愛憎劇。ベタニーがとことんボスに惚れまくるのだ。惚れると言っても、この場合ベタニー&マルコム・マグダウェルなのでその愛情表現が半端じゃない。というか、こんなのイヤだ〜と叫びたくなるような類のもの。こんな相手に纏わりつかれたら、もう身の不運だと思ってあきらめるしかない。そんな愛情だった。

ちなみに、マルコム・マグダウェルの若い頃をベタニーが演じているのだが、よく似ている。顔立ちじゃなくて雰囲気が(あるいはキレっぷりが)ベタニーのほうがなまじっかキレイな作りなのでよりいっそうコワイ。もし拷問されるなら、まだマルコム・マグダウェルのほうを私は選ぶだろう(でも、やっぱりコワイ…)(2003/07)

『ブルークラッシュ』(2002米)

貧乏だけど才能があふれる若者が夢見るのはいつも似たようなものだと分かっていてもやはりこういう成りあがりドラマは面白い。にしても、このヒロインはものすごく分かりやすい性格をしている。あんなに苦労して打ち込んでいたサーフィンなのにリッチでハンサムな男が出てきたら、すぐに忘れてしまうんだもの。ここら辺、日本人の精神論からすると甘ちゃんなように見えるけど、まあね現実はこんなものかもしれない。私だってこんな状況だったら迷わず玉の輿を目指すと思うもの。でもそれではドラマが成立しないか(笑)

しかし、この映画見事なくらい客層がはっきりしていたなあ。普段、映画は見ないけどサーフィンが好きなので…とおぼしき人物ばかり。むしろ私みたいにサーフィンとほど遠そうな人のほうが少なかった。でもサーフィンと無縁な身でもこの映像には恐れ入ったけど。こんなに危険なスポーツだとは思わなかった。(2003/07)

『ミニミニ大作戦』(2003米)

残念なことに前のを観てないので比較できないけど、たぶん前作に忠実にリメイクしたのだろうなぁという丁重な作りがよかった。なんといっても冒頭のD・サザーランドがいい。この人がいたからこそ、こういうドラマが生まれたのだよねえ。キャストも「オースティン・パワーズ」でおなじみのセス・グリーンのオタクっぷりとかエドワード・ノートンの憎々しい悪役とかそれぞれイメージに合っていたと思う。うーん、私はやっぱりこういう映画は好きだなぁ。だってとても粋なんだもの。ホントにSFXとかワイヤーアクションとかを多用しなくてもちゃんとしたアイデアがあれば面白い映画は作れるのだ〜としみじみしてしまう。しかし、こういう映画に限って上映期間が短いのだよねえ…いやはや。(2003/07)

『神に選ばれし無敵の男』(2001独・英)

久しぶりのヘルツォークはなんだかとっても分かりやすくなってしまったような気がする。これも心境の変化なのだろうか。初めて観た『アギーレ神の怒り』はあまりよく理解できなかったけど、クラウス・キンスキーの迫力にただ圧倒された。そのクラウス・キンスキーも亡くなって久しいが、それがしばらくの間映画を撮らなかった理由の一つなのだろうか。

などどといったことはともかく、これは断然ティム・ロスがいい!ハヌッセンという複雑な人物を目線一つで物語ってしまうのだ。出番は意外なぐらい少ないが、印象は強烈だった。共演している二人は役者ではなく、このためにヘルツォークが出演以来したのだそうだが、それがよかったのかもしれない。普通の役者が演じていたら、間違いなくティム・ロスに食われていただろうから。ストーリーは寓話仕立てで、どことなく『フィッツカラルド』を思い起こさせるが、あれほど賑々しくなく、落ち着いた雰囲気になってきている。もしかして小津を意識したのか(…のはずはないよな)(2003/06)

『二重スパイ』(2003韓国)

なんだか最近北朝鮮を題材にした映画が多いような気がする。それだけネタにしやすいということなのだろうか。その中でこれはかなりシリアスのかの国の姿を捉えているような気がするけれど、私が観た北朝鮮を題材にした映画というと『007/ダイ・アナザー・デイ』ぐらいだからなあ…比較にならないかも(笑)

内容はというとタイトル通り二重スパイを主人公にしたもの。ル=カレやフリーマントルに出てきそうな設定だけど、あれほどの緊張感はない。何が違うのだろうか……としばし考えてみると、北朝鮮のスパイ組織は信念だけで戦っていることかな。ソ連のスパイには、あんまり愛国心というのはなかったような気がする。その代わり、命令に背くと収容所送りが待っているのだが。

あと、韓国&北朝鮮、80年代にしてはかなりアナログのような…。この時代の米ソだったら、、もっとハイテクだったと思うけどなあ。こういうのはささやかなことかもしれないが、その代わり、端々に人間臭さがあって、スパイ物としてのサスペンスよりこの当時の韓国と北朝鮮の関係のほうが興味深かった。それにしてもスパイの最期はどうしてもこうなるのね。(2003/06)

『シカゴ』(2002米)

ボブ・フォッシーだからある程度は覚悟していたけど、ここまで勧善懲悪の正反対をやってくれると何も言いようがない。ミュージカルだからそんなに思わなかったけどストーリだけを思い起こすと、相当キツイ内容だ。だって善人は出てこないんだもの。お人好しと運の悪い人はいるけど、最後に勝ち残るのは悪人だけ。ものすごく徹底しているけど後味はよくない。まあ、音楽とキャサリン・ゼタ・ジョーンズーがよかったけど…。しかし、『キャバレー』や『オール・ザット・ジャス』の足元には及ばない作品だなあ。予告だともっと面白そうに見えただけに残念。(2003/06)

『8Mile』(2002米)

映画秘宝でヒップホップ版ロッキーと称されていたけれど、まさしくそんな内容。でもロッキーよりエミネムのほうがハードかもしれない。少なくてもロッキーには息子の上級生とデキてるお母ちゃんはいなかったもんね。しかも、このお母ちゃんの悩みはスゴイ!こんなこと息子に打ち明けるなよ〜。まあ、キム・ベイシンガーだからいいけどね(笑)

てなことはともかく映画初出演のエミネムがとてもそうは思えないほどしっくりと合っていた。たぶんもう30過ぎだというのに10代といっても通用するようなこの若々しさはなに?うらやましい!

それにしてもまだ30才ぐらいの人間の自伝映画を本人に演じさせるのは、結構博打だと思うけど、この映画に関しては見事に成功している。一番の見せ場のラップバトルは確かにエミネム本人じゃなければ、あそこまでの迫力は出なかったかも。思わずバトルの相手に同乗したくなるほどのツッコミだった。しかしラップバトルって禅問答だね。坊さんのラッパーがいたら無敵なのかな(笑)(2003/06)

『トゥー・ウィークス・ノーティス』(2002米)

これは友人に大絶賛されて観に行ったものの、どうも私の好みと違うので困ってしまった。いいストーリーなんだけどねえ…もう少しきめ細かさが欲しかったな。恋愛映画の面白味は機智に富んだ会話じゃないかと思う身には、この脚本は少しいただけない。申し訳ないけど、ルビッチやワイルダーの偉大さをあらためて感じてしまった。でもヒュー・グラントはよかった。だらしないけど優しくて捨て犬のような目でこちらを見つめてくるので、これは心が弱っているときに見ると揺らぐかもね。あと、ラストもよかった。ああいうことをサラリといえてイヤミに響かないのは彼ならではだ。(2003/06)

『めぐりあう時間たち』(2002米)

これは期待して観に行って予想通りにいい映画だなあと思ったけど、これを見ているとき隣にものすごくマナーの悪い客がいたせいで、あんまり印象がよくない。隣にいた客というのがおおよそ考えられるぐらい非常識で終始ガサガサと物音は立てるわ、静かな場面に限って喋りだすわで何度注意しよう(できるなら殴り倒したかった…)と思ったことだが。今思い出しても腹立しい限りだ。ああいう輩は映画館に来るべきではない。家のTVで十分だ。この次ああいう客と隣り合わせになったら速やかに移動しよう。

ということで、この作品の感想を上手くいえないが、M・ストリーブがとてもよかった。世間ではN・キッドマンが注目されているけれど、存在感では圧倒的にM・ストリーブのほうが上だ。役者としての格が違う。老けたけど相変わらずの美しさも嬉しかった。(2003/06)

『北京ヴァイオリン』(2002中国)

チェン・カイコーというとどうしても『さらば、わが愛/覇王別姫』のイメージが強い。そのせいか、ダイナミックだけど、今ひとつ大味な演出しかしないと思っていたのだけど、いつの間にかこんなを繊細な表現しするようになったのか…!とにかく最初から最後まで見事としかいいようのない演出ですっかり魅せられてしまった。とくにすばらしかったのはラスト。この主人公の男の子の選んだ道は現代の中国人に対しての痛烈な批判なのかもしれないが、そんな説教臭さを微塵にも匂わせないところが絶妙だ。本当にチェン・カイコーはすばらしい名監督となったと思う。次作も必ず観に行こう。(2003/06)

『マトリックス・リローデッド』(2003米)

まあね、流行なんてこんなものさっというのはよく分かっていたけど、ここまで作り手と観客の意識がズレていると、映画本体よりそちらのほうが面白い。観終わった後、呆然としていた人間がどれほどいたことだか…。あの予告じゃねえ、だまされたと思うのも無理ないけれど(笑)

それにしても、予告の反戦っぽいコピーは勘弁してほしいよなあ。誰がこの映画で「戦いのない世界はすばらしい」なんて思うだろうか。この映画の見所は、いかに現実離れした荒唐無稽なアクションシーンをやってくれるかだけであって世界平和を目指すような深淵なストーリじゃないというのに…。それに肝心のストーリーは、○ィックのパクリではないか。

ということで、ストーリーなんてどうでもいいもんね〜と思って観たら、そこそこ面白かった。とにかくA・スミスがすばらしい〜!久しぶりに萌えてしまったもの。あとは久しぶりに見たランベール・ウィルソン(ランバート・ウィルソンと表記されているけどフランス映画ファンとしては、やはりランベールである!)のキレっぷりもいい。ところで、この人とモニカ・ベルッチの二人が登場するとフランスの恋愛映画みたいだなあと思っていたら、ホントにフランス映画のような痴話喧嘩をしたのには大笑いしてしまった。次作でもぜひこういう遊びをやってほしいものだ。(2003/06)

『少女の髪止め』(2001イラン) 

アフガン難民の少女に恋をしたイラン人青年の片思いの物語。恋のきっかけは他愛ないもので、こんなに純情な人間は今の日本では到底お目にかかれないだろう。全体的にほのぼのしたテンポなのだが、この二人を取り巻く状況はシビアだ。難民である以上、一定の場所で働き続けることができないし、そうなると仕事も限定される。そもそも仕事自体、選べるほどない。こんな国に誰がした!とさぞかし難民の人々は言いたいだろうなあ。

少女と青年は結局一言も言葉を交わさずに別れていく。この二人の前途はどうなるのだろうか。明るいものが思いつかないだけに切ない。(2003/06)

『レセパセ/自由への通行許可証』(2002仏)

ナチス・ドイツ占領下のパリの撮影所を舞台にして1940年代フランス映画へのオマージュであるが、内容は3時間弱と思えないほど地味。ただし、この当時のフランス映画好きにはたまらない内容だった。だってクルーゾーやカイヤットといった映画人の名前が頻繁に出てくるのだ。ああ、あの映画はこういう状況で作られたのかと思うと、それだけで胸が熱くなる。

それにしてもフランス人の文化にかける情熱はスゴイ!占領下においても決して媚びないどころか、伝統を守るために必死になる。それだけ自国の文化に誇りがあるのだろうけど、日本人には真似したくてもできないだけに、その気概が羨ましい。

あと、コンティナンタル社の経営責任者が印象的だった。ドイツ人だけど、映画を深く愛するだけに反動的な人物でも積極的に登用しようとする。イデオロギーよりも芸術を優先したその姿勢はもっと評価されてもいいのではないか。終戦後の半生が謎というのは残念である。(2003/06)

『ハンデット』

観終わった後、思わず唸ってしまった。SFXもないし、ワイヤーアクションもない。若干、カーアクションはあるけれど、それだって『フレンチ・コネクショウン』のときとあまり変わってない。なのに、とても面白いのだ。さすがフリードキンだなあと心の底から思った。とにかく、体を張ったアクションばかり。トミー・リー・ジョーンズはかってのジーン・ハックマンのようにひたすら走りまくる。格闘シーンも原始的で、武器はなんとくず鉄で作ったナイフと川原で拾った石を研いだナイフなどで、これらを使ってカンフーでなくマーシャルアーツで文字通り肉弾戦を展開する。まるで最近のハリウッド映画をあざ笑うかのような描写の数々…たぶんこれはフリードキンの意地なのかもしれない。SFXもワイヤーアクションも見飽きた目んにはとても新鮮だった。(2003/06)

『X-MEN2』(2003米)

これも原作は全くといってもいいぐらい知らないので、ストーリーやSFXにはあまり期待せずに観に行った。ストーリーはまあ予告で観た通りのもの。今回、ハル・ベリーがアカデミー賞女優となったためか、やたらと扱いが大きく、キャラ的にはそれほどでもないような存在だったので、そこら辺に少々違和感を感じる。私としてはむしろアンナ・パキンの役のほうがもっと前面に出てもいいと思ったのだが…

それにしても相変わらずカッコいいのが、イアン・マッケランである。牢獄から脱出するシーンなんて拍手喝采したくなるほどの堂々ぶりで嬉しくなってしまった。今回はこの人だけを目当てにして来たのだが、その甲斐は十二分にあった。よかった。(2003/06)

『過去のない男』(2002フィンランド) 

これは予告が良かったので観に行ったもの。予告通りに面白かった。不慮の事故に見舞われた男が田舎町で善意の人々を巡りあって新しい人生を歩み始める…という単純なストーリーなのだが、お涙頂戴に走ることもなく、さりげないユーモアで綴られていくのがよかった。とくに印象に残ったのは、音楽好きな主人公が救世軍のバンドのメンバーを感化してロック好きにしてしまい、それが上司にまで飛び火してコンサートをやってしまうところ。しかも、この上司はロックよりもポップスな世代なので、バンドのメンバーが聖歌以外を演奏できるのはいいけど、今ひとつやる気がなさそうな雰囲気だったのには思わず笑ってしまった。一応、恋愛映画だけど、主役二人とも美男美女じゃないというのも、この監督らしくていい。観た後に、しみじみとした幸せを感じさせてくれる作品だった。(2003/05) 

『エニグマ』(2001英) 

リチャード・ハリス原作は読んでいないので、比較できないのが残念だったけど、総じて面白い内容だった。サフラン・バロウズは「運命の女」にふさわしい美しさでなるほどこれなら男が道を踏み外すのも無理はないというもの。しかし、なによりもよかったのは、ジュレミー・ノーザム。気が付くと、この半年でジュレミー・ノーザムの出ている映画を4本も観ているのだが、どれもまったく違う役柄なのにピタリとハマっている。ともすれば、地味すぎて存在感を感じさせないところもあるのだが、それでもこの作品のように含みのある役をサラリと演じているのを見ると、この人の芸達者ぶりに唸ってしまう。もしかしたら、とんでもない役者なのかもしれない。今度はこの人を目当てに観に行ってみよう。(2003/05) 

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002米)

実言うと、スピルパーグってあんまり好きではない。『E.T.』では泣けなかったし、『シンドラーのリスト』に至っては虫唾が走るほどイヤだった。ディカプリオも今更興味ないし、もちろんトム・ハンクスにもあまり関心はない。なのに、どうしてこの映画を観に行ったかというと、クリストファー・ウォーケンが出ているからだ。で、久しぶりに観たウォーケンは予想以上に老けていた。でも、やはりイイ!細かい仕草がシビレルほど決まっているのだ。ちなみに、映画自体もとてもよかった。なんだ、スピルバーグってこういうオトナな映画も撮れるのね。知らなかった(笑)

あと、どうでもいいことだけど、もし『未読王購書日記』をハリウッドで映画化するなら、ぜひこのドリーム・ワークスでやってほしいなあ。主演はディカプリオでもトム・クルーズでもダニエル・ダトクリフでも誰でもいいから、脇はベテランで固めてほしいなあ。それこそ、ウォーケンとかサム・シェパードとかマイケル・ケインとかでね。あ、あと音楽はもちろんジョン・ウィリアムズでしょう。ということで、どこかの奇特な企業とか富豪がスポンサーとなって製作してくれないかしら>『未読王購書日記』の映画…たぶんお客さんは二千人ぐらいは入ると思うのだけど…。(2003/05)